ヴォルフガング・サヴァリッシュ、NHK交響楽団の定期演奏会に登場する。
11月13日(土)、14日(日)のプログラムは、
ハイドン/交響曲 第35番 変ロ長調
ブリテン/ヴァイオリン協奏曲 作品15
ベートーヴェン/交響曲 第7番 イ長調 作品92
サヴァリッシュは、1923年生まれの81歳。
パンフレットには、「文字通の現役最長老格のマエストロ」
「巨匠の尽きせぬ探究心と表現意欲に圧倒される選曲であり、信頼するN響との協調性豊かな熱演も他に得がたい感動を約束するものとなろう」
と書かれていた。
サヴァリッシュは、ゆっくりとステージを歩き、椅子にすわっての指揮。
ベートーヴェンの終楽章では、大きく手を振るような指揮ではないが、N響熱演。
指揮によって作られる音楽ではなく、サヴァリッシュの存在によって音楽が自然に湧き上がってくるような印象。
演奏が終わると、いつになく多い「ブラボー」の声。
団員がステージを去り、ステージの照明が落ちても、その場を去り難い聴衆の拍手は続いていた。ステージ前に集まったマエストロの姿をもう一度見たいという聴衆とともに、各階でも拍手が続く。私も3階席から下に降りて真っ暗なステージに向かって拍手を続けた。
帰らぬ聴衆に向かって、ステージ担当が「マエストロは大変お疲れなので・・・」と説明。
拍手が止み、諦めた聴衆の一部が帰りかけた時、サヴァリッシュが再びステージへ。
再び起こるブラボーの声。
照明もまた灯った。
ステージのはじで、サヴァリッシュはゆっくりと手を掲げる。
みな、力いっぱいの拍手。
数十年にわたるN響との数々の名演。
「マエストロありがとう」と心の中でつぶやく。
これまでを振り返りながらマエストロへの感謝の意を表した拍手。
鳴り止まぬ拍手を続ける一人一人の思いは、それぞれ違っている。
しかし、誰の目にもサヴァリッシュの動作には、はっきりと「老い」を感じる。
ふと、ベームの晩年を思い浮かべる。
文化会館で行われたウィーン国立歌劇場の「ナクソス島のアリアドネ」。
あの時も、聴衆の一人としてステージ前で延々と拍手を続けた。
「これがベームの姿を見る最後の機会かもしれない」、そう思っていた。
サヴァリッシュには、まだまだ指揮を続けてほしい。
数年前までの指揮ぶりとは明らかに違うが、存在そのものによって、音楽を生み出す力は偉大。彼の信頼に応えられるN響とは特別な関係である。
そうした場に居合わすことができるのも、今しかない幸せの時だ。