オシム氏、単なるサッカーの監督ではない。
もちろん監督としてのビジョンや選手の育成は素晴らしい実績があるが、彼の人生の背景が壮絶。
監督時代のユーゴスラビア崩壊の歴史、ボスニア人としての苦悩、サラエボ包囲で残されてしまった家族との断絶の期間。1992年当時の厳しい状況は、サッカー界にも重くのしかかる。代表として背負う国が変わってしまう。
それでも、分裂したどの国の人々からもオシム氏は尊敬されているという事実が、彼の偉大さを物語る。
旧ユーゴの同郷人、ストイコビッチはセルビア人。
あの頃のピクシーの行動の背景も、これを読んでよくわかる。
NATOのセルビア空爆への抗議。
それ以前に泥沼化していた民族や国の問題。
セルビア・モンテネグロの解体で、2006年に完全に消滅したユーゴスラビア。
2008年のコソボ独立宣言と、今も続いている。
ジェフの快進撃の舞台裏も小気味よく、もちろんサッカーの話題が中心なのだが、
この書から、ユーゴスラビアを巡る状況がオシム氏の人生とサッカーを通じて生々しく伝わってくる。
1994年の
『 バルカン化する世界:新世界無秩序の時代』
イブ=マリ・ローラン、篠原成子訳、日本経済新聞社
に書かれた情報は、今としては新しくないが、
バルカン化の状況や、日本、イスラム、アフリカ、経済など、1994年の予測はそれほど間違っていない。